目次
はじめに
こんにちは、アンです。
最近、私の博士前期の研究テーマやタイトルについて悩んでいます。社会や他者からの「ノイズ(騒音)」が私たち人間に及ばす影響に興味があります。その影響に対する人間の脳の反応に着目し、ジェネラティブアートの制作を研究したいです。そこで、ノイズとアートに関連性がある概念や事例を調べました。ノイズとは
ノイズの概念は、分野によって違います。情報処理の分野では、ノイズは処理対象となる情報以外の不要な情報のことです。一方、日常生活のノイズは、日本騒音制御工学会によると、ノイズあるいは騒音、雑音とは、身の周りの様々な音のうち、人に好ましくない影響を及ぼす音、不必要な音、邪魔な音を指します[1]。しかし、ノイズ(騒音)は主観的な概念として定義されています。つまり、音の印象は聞く人とその人の状態によって大きく左右されます。ある人にとっては、快い音楽であっても、別の人には騒音になりかねません。たとえば、電車やバスのなかで隣の人のヘッドフォンから漏れた音などがそうです。さらに、ノイズ(騒音)は聞く人にとっての個人的問題であるばかりでなく、聞く人が属する社会や文化にも関わっています[2]。つまり、ある音がノイズかどうかを判断する基準は、主観的な基準であり、同時に、社会的あるいは文化的な基準でもあります。
ノイズとアート
ノイズは、それぞれの分野で定義が違います。しかし、必ず不要、邪魔、余計などの意味を含んだ定義がされています。つまり、どんな分野においても、ノイズは良くないものです。
一方、アートまたは芸術とは、作品の創作と鑑賞によって精神の充実体験を追求する文化活動を指します。精神の充実体験として、アートは人間に良い影響を与えるといえます。 このように意義が対立している二つの概念には、密な関係があります。音楽、ジェネラティブアートの二つの分野で、ノイズとアートの関連性を検討します。ノイズと音楽(ノイズ・ミュージック)
もともと、音楽美学の分野では、音楽にふさわしい音、ふさわしくない音の区別を研究されていました。たとえば、ジゼール・ブルレは、「楽音」と「騒音」を対比させて以下のように論じます。「騒音は私たちを世界へとつなぎとめるが、音楽は私たちを世界から解放してくる。騒音は動揺を引き起こすのに対して、楽音は安らぎを与える」[2]。しかし、イタリア未来派のルイージ・ルッソロがノイズに美的な価値を見出しました[3]。そのさい『騒音の芸術(The Art of Noises)』という宣言を発表しました。自動車のエンジン音など日常生活のなかでのノイズ(騒音)は抽象的な素材となり、音楽の作品が作られます。ルッソロはノイズを用いた表現と電子音楽の先駆者と考えられています。
ノイズとジェネラティブアート
ジェネラティブアートとは何かを前回のブログで紹介しました。私の場合は、p5.js、processing、glslなどのプログラミング言語を使ってジェネラティブアートの表現を研究しています。これから、p5.jsを使用して作れた例を挙げながら、ジェネラティブアートでのノイズを紹介します。 p5.jsでのnoise関数とperlin noise p5.jsのnoise関数の説明によれば、noise()関数は指定された座標での パーリンノイズ(Perlin noise)値、あるいはランダムの値を返します。random() 関数と比較すると、より自然な順序で調和のとれた一連の数値を生成するランダムシーケンスジェネレータです。パーリンノイズは、1980年代にKen Perlinによって発明され、手続き型のテクスチャ、自然な動き、形状、地形などを生成するためにグラフィカルアプリケーションで使用されています。 パーリンノイズは、無限のn次元空間で定義されます。p5.jsには、指定された座標の数に応じて、1D、2D、および3Dノイズを計算できます。結果の値は常に0.0 から 1.0 の間になります[4]。 p5.jsで、一次元のnoise(x)、二次元のnoise(x, y)と三次元のnoise(x, y, z)それぞれを使って1D、2D、3Dの例(下の図)を作りました。池田亮司と《test pattern》
池田亮司は、日本の電子音楽、実験音楽のミュージシャン、現代美術作家として知られています[5]。超音波、周波数、そして音そのものの持つ本質的な特性の細部に徹底してこだわる池田の作品は、音の物理的特性や人間の知覚との因果関係、音楽としての数学的類推、時間、空間を活用する[6]といわれています。2008年から、代表的なシリーズ制作の《test pattern》が始まりました。《test pattern》は、あらゆる種類のデータ(テキスト、サウンド、写真、映画)を2つの形式「バーコード」と「0/1バイナリー」に変換するシステムです。下の写真は、2017年の「test pattern [nº13]」です。
私の感想 シリーズ作品の《test pattern》は、私にとってはじめて理解できた池田の作品であり、また一番印象的な作品でもあると思います。《test pattern》では、ノイズのような実験的な音楽と、白黒のパターンが長年試行錯誤されています。音の持つ本質的な特性を細部まで検討、音だけではなく画像や映像のノイズに活用していることを池田の作品から学びました。
さいごに
今回はノイズの定義、音楽とジェネラティブアートの分野でのノイズについての概念を簡潔に紹介しました。同時に、池田亮司の代表作とそれに対する私の感想を書きました。私のこれからの研究と制作に参考にしたいと思います。
参考文献
[1] 日本騒音制御工学会『騒音問題とは』(http://www.ince-j.or.jp/old/01/page/doc/WhatsProblem.html)
[2]山下尚一, “聞くことの転換と社会の変容―ルッソロの騒音芸術の思想について”, 駿河台大学論叢, vol53, 2016
[3]美術手帖ART KIWI: ノイズ(Noise)(https://bijutsutecho.com/artwiki/108)
[4] p5.jsの参考文献:noise()(https://p5js.org/reference/#/p5/noise)
[6]2008年山口情報芸術センターで開催されたインスタレーション展「datamatics」での池田亮司のプロフィール(https://special.ycam.jp/datamatics/profile.html)
[7] 「test pattern [nº13]」の紹介ページ(https://www.ryojiikeda.com/project/testpattern/#test_pattern_n13)