卒業制作紹介:電子ペーパーを表示装置とした環境決定的変数によるGenerative Art

B4の坂村です。ネットワークデザインスタジオが所属する東京都立大学システムデザイン学部インダストリアルアート学科を2025年3月に卒業しました。

今回は、卒業制作について紹介します。

はじめに

卒業制作では「createdAt: 」という作品を制作しました。

この作品は、実行される環境の情報からその場限り唯一のビジュアル生成を行う装置です。

表示装置として電子ペーパーを用い、実行される環境・装置・生成されるビジュアルをひとつの作品として扱います。本作では実行された「時刻・位置情報・実行ボタンの押下時間」といったミニマムな情報をシード値としてそれらの値をなるべく純粋な形でビジュアルとして提示することを目指しています。

デジタルデータにおける、データ作成日時を示すメタデータ「createdAt」が作品タイトルの由来となっています。

概要

このプロジェクトは、デジタルアートが抱える「完璧なコピーが無限に生み出せてしまう」という複製可能性への疑問からスタートしました。

デジタルデータで作品制作を行っていると、コピーの容易さから、作品としての固有性や唯一性が薄れるように感じます。NFTなどの技術はこれを解決したかに見えましたが、外部的に与えているにすぎず、作品自体の構造を変えるものではありませんでした。そこで、デジタル作品でありながらも実体感と唯一性を本質的にもつ作品を作れないかと考えたのが構想のきっかけです。

装置は、大きく分けて以下の要素でできています。

  1. 描画処理の計算を行うマイコン: Raspberry Pi Zero 2 W

  2. 表示装置: 電子ペーパー

  3. 変数表示のインターフェース: 7セグメントLED

  4. 実行ボタン: プッシュスイッチ

描画処理を行うプログラムが、実行時の「時刻(UNIX Time)」「場所(緯度経度)」「ボタンを押していた時間」を読み取ります。これらの値は7セグメントLEDによって提示され、ハッシュ関数やPerlin Noiseを用いて幾何学的なピクセルパターンを生み出します。

本作の最大のポイントは、「生成されるビジュアルは電子ペーパー上で初めて結実し、その上にしか存在しない」という点です。マイコンで行う生成処理においては、画像を生成するのではなくピクセルデータとしての配列を生成するだけです。その配列データが電子ペーパーに送られ、表示されて初めてビジュアルとして結実します。

マイコン側では画像データを持たないので、ビジュアル作品は電子ペーパーの上にのみ存在することになります。 また、電子ペーパーは一度書き込むと非電力で表示を保持できる特性を持っています。つまり、電子ペーパーは表示装置であるだけでなく、作品を保存する唯一のメモリとしても機能しているのです。

生成される作品はデジタルデータとしてではなく、電子ペーパー上にのみ物質化されて残る、という仕組みになっています。

装置はあえて配線やコンポーネントが見える形にすることで、過度に洗練された同質的なデバイスによってデジタル作品が消費されていくことへの対比的な構造としました。

実行例

実行時刻、場所、ボタンを押す長さのどれか1つでも異なれば全く違う結果になるため、同一のビジュアルを再生成することはできません。

いつでもどこでもコピーでき閲覧できるデジタル表現とは真逆の、その場所と時間にしか存在し得ない作品の制作を目指しました。

youtu.be

卒業制作展

こちらの作品は、2026年3月に東京都美術館で行われた卒業制作展において発表を行いました。

industrial-art.sd.tmu.ac.jp

装置だけでなく展示什器を含め全てを自作しました。

来場された方々とのコミュニケーションの中でも自分が見えていなかった視点からの質問や考えなどが聞け、展示するからこそ得られたものも多くありました。

今後の展開

本作では、デジタル作品が本来持ちにくい唯一性や固有性を、電子ペーパーという物質的な存在に結びつけることで立ち上げることを試みました。

卒業後は修士課程に進み、テーマは変わりますが、引き続きデジタルと物質性の関係を軸に制作と研究を続けていく予定です。 今回のように、仕組みや装置のレベルから作品のあり方を問い直すアプローチを、今後も発展させていきたいと考えています。